2022年改正プロバイダ責任制限法 対応 最終更新: 2026年10月8日

発信者情報開示請求の費用|弁護士費用の内訳と裁判所実費を出典つきで解説

この記事の結論

発信者情報開示請求(発信者情報開示命令)の費用を一次情報だけで整理。裁判所に納める実費は民事訴訟費用等に関する法律で1,000円などと定まっていますが、弁護士費用は2004年の自由化により事務所ごとに異なり「相場」はありません。手続きの流れと費用を抑える方法を解説します。

発信者情報開示請求(発信者情報開示命令)を検討するとき、多くの方が最初に気にするのが費用です。本記事は「弁護士費用の相場は◯◯万円」という断定をしません。理由は、弁護士報酬が2004年の自由化により事務所ごとに異なるためです。かわりに、法令と裁判所の公式案内で金額が確定している裁判所実費、そして手続きの正しい流れを、出典つきで整理します。

発信者情報開示請求の費用を検討する前に知っておきたい3つのこと

SNSや匿名掲示板での誹謗中傷に対して発信者情報開示請求を検討する際、まず気になるのが費用です。結論として、この記事では「弁護士費用の相場は◯◯万円」という金額を示しません。弁護士報酬は2004年(平成16年)の自由化以降、日本弁護士連合会の統一的な報酬基準が廃止されており、事務所ごとに独自の基準で金額を定めているためです。一方、裁判所に納める実費は法令で金額が確定しているため、こちらは具体的な金額を出典つきで示せます。

重要:本記事は弁護士費用の「相場」「目安」という形での金額提示を行いません。正確な費用は、依頼を検討している弁護士事務所に直接お問い合わせください。

費用を検討するうえで押さえておきたい3点です。

  • 1. 裁判所に納める実費は法令で確定額 — 発信者情報開示命令などの申立て手数料は民事訴訟費用等に関する法律で定められており、後述のとおり1件あたり1,000円です。
  • 2. 弁護士費用は事務所ごとに異なる — 着手金・報酬金などの費用体系や金額は各弁護士事務所が独自に設定します。複数の事務所で見積もりを取ることが、金額を知る実質的に唯一の方法です。
  • 3. 手続きの選び方で費用の構造が変わる — 2022年10月施行の改正法で新設された「発信者情報開示命令」を使うか、従来型の仮処分+訴訟を使うかで、必要な手続きの回数が変わります。

手続きの流れ(情報流通プラットフォーム対処法に基づく)

発信者情報開示請求の根拠法は、正式名称を「特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律」といいます。2022年10月の改正施行後は「情報流通プラットフォーム対処法」(旧:プロバイダ責任制限法)とも呼ばれています。この法律の第8条が発信者情報開示命令の根拠条文です。

典型的な手続きの流れは次のとおりです(東京地方裁判所の案内および総務省の解説に基づきます)。

ステップ内容根拠
1. 証拠の保全投稿のスクリーンショット(URL・日時が分かる形)を保存する-
2. 弁護士への相談権利侵害の明白性など、開示の要件を満たすか確認する法第5条
3. 発信者情報開示命令の申立て裁判所に対し、開示関係役務提供者(コンテンツプロバイダ等)を相手方として申し立てる法第8条
4. 提供命令・消去禁止命令(必要な場合)経由プロバイダの氏名等の提供や、発信者情報の消去禁止を命じてもらう法第15条・第16条
5. 裁判所の決定裁判所は、申立てが不適法または理由のないことが明らかな場合を除き、当事者の陳述を聴いたうえで決定する法第11条
6. 発信者の氏名・住所等の判明決定に不服がある当事者は、決定の告知を受けた日から1か月以内に異議の訴えを提起できる法第14条
発信者情報開示命令は投稿の削除を求める手続きではありません。あくまで投稿者を特定するための手続きで、投稿自体の削除を求める場合は別途、削除依頼や送信防止措置の手続きが必要です(東京地方裁判所の案内より)。

なお、発信者情報開示命令事件は、令和8年5月21日から始まった民事訴訟の全面電子化の対象外とされており、2026年9月時点では従前どおり書面で申立書を提出する必要があります(東京地方裁判所の案内より)。

旧制度(仮処分+訴訟)と新制度(開示命令)は何が違うのか

2022年10月施行の改正前は、コンテンツプロバイダに対する発信者情報開示の仮処分を得たあと、別途、経由プロバイダに対する発信者情報開示請求訴訟を提起する必要がありました。改正後の発信者情報開示命令事件は、これを原則1つの手続きで行えるようにしたものです(総務省「プロバイダ責任制限法Q&A」問7・問8・問10より)。

項目旧制度(発信者情報開示仮処分+訴訟)新制度(発信者情報開示命令)
手続きの回数原則2回(仮処分の後に訴訟)原則1回
担保保全命令(仮処分)は、裁判所が担保を立てさせることを条件にできる(民事保全法第14条)開示命令の条文に担保の定めはない(法第8条)
不服申立て仮処分は保全異議・保全抗告、本訴は控訴決定の告知を受けた日から1か月以内の異議の訴え(法第14条)
手続きの性質仮処分は民事保全法、本訴は民事訴訟法による非訟事件手続法が適用されるが、一部の規定は適用除外(法第18条)

費用の面では、新制度のほうが手続きの回数が少ない分、少なくとも裁判所に納める手数料の件数は少なくなります(具体的な金額は次章)。ただし弁護士費用の総額がどちらで安くなるかは、事案の内容や事務所の報酬体系によって異なるため、一律には言えません。また、新制度が常に有利とは限らず、事前にプロバイダから強く争う姿勢を示されているなど、開示命令だと審理が長期化しそうな事案では、あえて訴訟が選択されることもあります(前掲Q&A問23より)。

裁判所に納める実費(申立手数料・郵便費用)

裁判所に納める実費は、法令と裁判所の公式案内で金額が確定しています。ここだけは具体的な金額を出典つきで示せます。

手続き金額根拠
発信者情報開示命令の申立て1,000円(申立人または相手方が複数の場合はその人数分)民事訴訟費用等に関する法律 別表第一・東京地方裁判所の案内
提供命令の申立て1,000円同上
消去禁止命令の申立て1,000円同上
郵便費用(予納)レターパックライトを相手方の数に応じて予納。以降は手続きの進行に応じて必要額を都度予納東京地方裁判所の案内
異議の訴えの提起通常の訴え提起の手数料に準じ、訴額に応じて算定民事訴訟費用等に関する法律 別表第一・一
郵便費用は「一括でいくら」という定額ではありません。東京地方裁判所は、申立て時にレターパックライトを予納し、以降は事案に応じて必要な段階でその都度予納を求める運用としています。他の地方裁判所での運用は、申立てを行う裁判所に直接確認してください。

なお、旧制度の仮処分では、裁判所が担保を立てさせることを保全執行の条件にできると定められています(民事保全法第14条)。担保は事件終了後に返還されるものですが、金額は事案ごとに裁判所が決定するため、一律の相場を示すことはできません。

弁護士費用は自由化されており「定価」はない

弁護士報酬は2004年(平成16年)より自由化されており、日本弁護士連合会(日弁連)の統一的な報酬基準は廃止されています。日弁連自身が現在の公式サイトで次のように説明しています。

「弁護士の費用は、個々の弁護士がその基準を定めることになっており、標準小売価格というようなものはありません」(日本弁護士連合会「弁護士費用(報酬)とは」より引用)

そのため本記事では、「発信者情報開示請求の弁護士費用は◯◯万円」という金額を示しません。かわりに、見積もりを比較する際に役立つ費用項目の名称を、日弁連の説明にもとづいて整理します。

費用の種類説明(日弁連の説明にもとづく)
相談料法律相談にかかる費用。初回相談を無料としている事務所もある
着手金弁護士に事件を依頼した段階で支払うもの。結果にかかわらず、原則として返還されない
報酬金事件が成功に終わった場合に、事件終了の段階で支払うもの
実費裁判所に納める印紙代・予納郵券代、記録謄写費用など、実際に出費されるもの
日当出張を要する事件について発生する費用
正確な金額は依頼予定の弁護士事務所に直接確認してください。同じ「着手金」という名称でも、金額や発生条件(不成功の場合の扱いなど)は事務所によって異なります。複数の事務所に見積もりを依頼して比較することを推奨します。弁護士の選び方はこちらの記事でも解説しています。

収入等の条件を満たせば弁護士費用の立替制度もある

法テラス(日本司法支援センター)は、収入・資産が一定基準以下などの条件を満たす方を対象に、弁護士費用等の立替えを行う民事法律扶助制度を運営しています。利用には審査が必要です(法テラス「無料法律相談・弁護士等費用の立替」より)。条件の詳細は、お近くの法テラスの窓口で確認してください。

投稿されたプラットフォームで手続きの負担が変わる要因

投稿されたプラットフォームの運営主体が国内か海外かによって、手続き面での負担が変わることがあります。ただし、それが具体的にいくらの追加費用になるかは弁護士事務所の実費算定基準によって異なるため、本記事では金額を示しません。

プラットフォーム運営主体の所在手続き面で影響しうる要因
X(旧Twitter)海外(米国)海外法人への送達が必要になる場合がある
Instagram海外(米国・Meta)同上
YouTube海外(米国・Google)同上
5ちゃんねる海外法人が運営開示関係役務提供者の特定方法が個別に異なる
国内運営の掲示板・SNS国内国内法人向けの手続きで完結することが多い

海外に所在する事業者を相手方とする場合、送達や訳文の準備など、国内法人を相手にする場合とは異なる実務上の負担が生じることは広く知られています。プラットフォームごとの開示請求の手順は、それぞれの個別記事もあわせてご覧ください(X(旧Twitter)/Instagram/YouTube/5ちゃんねる)。

弁護士に依頼せず自分で申し立てることはできるか

発信者情報開示命令の申立ては、本人が行うこと(本人訴訟に準ずる形)も制度上は可能です。この場合、裁判所に納める実費(前述の申立手数料や郵便費用)のみで済み、弁護士費用は発生しません。

ただし、裁判所は申立てが不適法であるとき、または申立てに理由がないことが明らかなときを除いて相手方に申立書の写しを送付する仕組みになっており(法第11条)、権利侵害の明白性など法律上の要件を申立書の中で的確に主張立証する必要があります。要件の主張が不十分な場合、申立てが認められない可能性があります。

本人で申し立てる場合は、東京地方裁判所が公開している申立書式・チェックリスト・記載例を確認し、記載内容に不備がないか事前に十分確認することをおすすめします。

費用倒れとは何か、どう考えればよいか

「費用倒れ」とは、発信者情報開示請求やその後の損害賠償請求(慰謝料請求)にかかった費用の総額が、実際に得られる(または回収できる)金額を上回ってしまう状態を指す一般的な表現です。

どのような場合に慰謝料としていくら認められるか、また弁護士費用のうちどの程度を相手方に請求できるかは、投稿の内容・拡散の範囲・相手の資力など個別の事情によって大きく異なり、確定した相場や回収割合を示す公式な統計は、本記事の調査範囲では確認できませんでした。慰謝料の考え方については、別記事「誹謗中傷の慰謝料」もあわせてご覧ください。

費用倒れのリスクを判断する材料として、一般に次のような要素が挙げられます(個別の事案ごとに弁護士へ確認することが前提です)。

  • 相手方に支払い能力(資力)があるか
  • 投稿からの経過期間(プロバイダのログ保存期間は有限であるため、時間が経つほど発信者の特定が難しくなります。詳しくは「プロバイダのログ保存期間」)
  • 投稿が1件のみか、継続的なものか
  • VPNや海外プロキシ経由など、そもそも発信者の特定が技術的に困難でないか
費用倒れになるかどうかは事案ごとの個別判断です。本記事の一般的な留意点だけで判断せず、必ず弁護士に相談したうえで、開示請求を進めるかどうかを判断してください。

費用の負担を抑えるためにできること

  • 新制度(発信者情報開示命令)が使えるか確認する — 原則1回の手続きで済むため、少なくとも裁判所手数料の件数を減らせます(前述)。
  • 複数の事務所に見積もりを依頼する — 弁護士報酬は自由化されているため、同じ内容の依頼でも事務所によって金額・体系が異なります。
  • 初回相談の条件を確認する — 初回相談を無料としている事務所もあります。相談時に着手金・報酬金の発生条件を書面で確認しましょう。
  • 法テラスの民事法律扶助制度を確認する — 収入等の条件を満たせば、弁護士費用の立替制度を利用できる場合があります(前述)。
  • 証拠を整理してから相談する — スクリーンショット(URL・日時が分かる形)を整理しておくことで、弁護士の調査に要する時間を短縮できる可能性があります。

出典・参考情報

弁護士費用は事務所により異なります。本記事の金額は、裁判所に納める実費については上記の法令および裁判所の公式案内を出典としていますが、弁護士費用については特定の金額・目安を提示していません。正確な費用は依頼予定の弁護士に直接お問い合わせください。

よくある質問(FAQ)

Q.発信者情報開示請求の弁護士費用の相場はいくらですか。

A.

確定した「相場」はありません。弁護士報酬は2004年(平成16年)に自由化されており、日本弁護士連合会も公式サイトで「弁護士の費用は、個々の弁護士がその基準を定めることになっており、標準小売価格というようなものはありません」と説明しています(日本弁護士連合会「弁護士費用(報酬)とは」)。着手金・報酬金などの名称は共通していても、金額や発生条件は事務所ごとに異なるため、複数の事務所に見積もりを依頼して比較することをおすすめします。

Q.裁判所に納める実費はいくらですか。

A.

発信者情報開示命令・提供命令・消去禁止命令は、それぞれ申立て1件につき1,000円の申立手数料がかかります(申立人または相手方が複数の場合はその人数分)。これは民事訴訟費用等に関する法律 別表第一で定められた金額で、東京地方裁判所の案内でも同様に説明されています。このほか郵便費用として、申立て時にレターパックライトの予納が必要です(一括の定額予納ではなく、手続きの進行に応じて追加の予納を求められる運用です)。

Q.旧制度(仮処分+訴訟)と新制度(発信者情報開示命令)で、費用の構造はどう変わりますか。

A.

新制度は原則1回の手続きで済むため、少なくとも裁判所に納める手数料の件数は少なくなります。旧制度の仮処分は、裁判所が担保を立てさせることを条件とできる仕組みがあり(民事保全法第14条)、この担保は事件終了後に返還されますが一時的な負担にはなります。新制度の開示命令には、この担保の定めはありません。弁護士費用の総額がどちらで安くなるかは事案や事務所の報酬体系によって異なるため、一律にはお答えできません。

Q.弁護士に依頼せず自分で発信者情報開示命令を申し立てることはできますか。

A.

制度上は可能です。この場合、裁判所に納める実費のみで弁護士費用はかかりません。ただし、申立書の中で権利侵害の明白性などの法律上の要件を的確に主張立証する必要があり、不備があると申立てが認められない可能性があります。東京地方裁判所が申立書式や記載例を公開しているので、本人で申し立てる場合は事前によく確認してください。

Q.開示請求にかかった費用は、投稿者に請求できますか。

A.

投稿者を特定した後に損害賠償請求を行えば、事案によっては費用の一部が損害として認められる場合があります。ただし、認められる範囲や金額は事案ごとの裁判所の判断によって大きく異なり、一定の割合や金額を一律に示せる公式な統計は本記事の調査範囲では確認できていません。慰謝料の考え方については別記事もあわせてご参照ください。

Q.「費用倒れ」とはどのような意味ですか。

A.

発信者情報開示請求やその後の損害賠償請求にかかった費用の総額が、実際に得られる金額を上回ってしまう状態を指す一般的な表現です。相手方の支払い能力(資力)や投稿からの経過期間、投稿の件数などが判断材料として挙げられますが、最終的には個別の事案ごとに弁護士へ確認することが前提です。

Q.プロバイダのログ保存期間は費用に影響しますか。

A.

ログの保存期間は事業者ごとに異なり、有限です。総務省のQ&Aでも「時間が経過するほど特定することが困難となりますので、早めの相談をお勧めいたします」と案内されています。特定ができなければ、それまでにかけた費用が無駄になってしまう可能性があるため、投稿に気づいたら早めに弁護士へ相談することが、結果的に費用を無駄にしないことにもつながります。詳しくは別記事もご覧ください。

Q.発信者情報開示命令の申立てで、印紙は誰の分が必要ですか。

A.

相手方(開示関係役務提供者)が複数いる場合は、その人数分の収入印紙が必要になります。また申立人が複数いる場合も同様に、その人数分の額の収入印紙が必要になると東京地方裁判所が案内しています。印紙は申立書1枚目表の上部余白等に貼り付けます。

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